平田さん(スーパー・ディスレクシア)
2009-04-05(日) 18:01 | 長沼睦雄
平田さんは、幼小児期には、はにかみや屋で引っ込み思案で、忘れ物や失くし物が多く、いつもぼんやりしていると言われていたそうです。言葉の遅れがめだち、会話が年齢よりも幼く、一人で遊ぶことが好きで、クラスではめだたない子でした。授業中にボーとしていたり、友達とのコミュニケーションがうまくいかず、聞き違いや勘違いが多く、トンチンカンな返事をすることがよくありました。
動作神経が鈍く、スポーツが苦手で、飛び箱を飛んだことがありません。音感やリズム感も弱く、靴を左右に履き間違えたり、ボタンを掛け間違えたり、手先も不器用でした。片付けが苦手で、部屋がいつも散らかっていました。耳の炎症を起こしやすく、睡眠が不安定で、痛みや寒さに鈍感な子どもでした。
勉強面では、ローマ字がなかなか覚えられず、漢字練習などの宿題が苦手で、文章に集中することが難しく、数字や文字の読み間違えや見間違えが多く、文章を飛ばして読むことがよくありました。書写も苦手で、鏡文字を書いたり、漢字の偏と旁とを書き間違えました。文章を論理的に書くことが苦手で、散漫な文章を書くことが多く、九九や星座の位置を覚えることも苦手でした。
大人になった今でも、左右をよく間違えたり、地図を読むのが難しかったり、方向音痴です。また、音読が苦手で、長い言葉や人の名前を言い間違え易く、電話の内容を覚えていて伝えるのが苦手です。電話を掛けるときに間違え易く、暗算が苦手で、2桁の数字を見間違えたりします。さらに、金額を書き間違えたり、約束の時間や曜日を間違えたりなど、苦労の連続です。
知能検査では、IQは動作性知能と言語性知能に差がなく正常範囲であり、作動記憶能力が、言語理解、知覚統合、処理速度能力に比べて低いという特徴がありました。作動記憶力課題の中では「算数」と「語音整列」の課題が境界線レベルに弱い一方で、知覚統合課題の中での「積木模様」という構成能力課題がかなり強く、「行列推理」という図形推理課題がかなり弱いという特徴がありました。つまり、知能検査で測定できる能力の中では、言語理解、知覚統合、処理速度能力には問題がないけれども、作動記憶(ワーキングメモリ)や図形推理が弱いという結果でした。
音韻情報の入力、すなわち「脳内聴力」が弱いらしく、「ひさしぶり」が「しさしぶり」、「ユニバーサル」を「ユニバーシャル」と聞こえたりするようであり、書きの出力でにもエラーがおこります。小さい時から、本を読んでも自分のわかかる文字や単語だけを頭に入れて、まるで本に虫穴があいたような感じで文章を読んでいましたが、何十回も同じ文章を読んではその穴を埋める努力をしていたそうです。
最近、パソコンをやりだして、文字入力の壁にぶつかりました。アルファベットが同じように見え、アドレスを入れようとすると、大文字と小文字の区別もできず、一つ一つ指さして確認しなくてはいけないなのです。パソコンに文字を打ちこもうとすると文字がぼんやりしていて、指さしをしている横に打ちこみたい字があるのに、それがわかかるまでしばらく時間がかかります。小学校の時から、「こんなに勉強ができないなんて、どこでつまずいているのだろう」と親に言われたり、中学からは英語がまったくダメだったのは、読み書きが苦手な「ディスレクシア脳」のためだったのです。
昨年の暮れに放映されたNHKスペシャルの「病の起源」(あなたも読字障害?脳は文字が苦手)を見て、それがまさに自分の世界だったのでとても驚いたようです。文字が絵のように見えるアメリカの恐竜学者のジャック・ホーナ教授の話も、映像を立体的にどこからでも脳の中で見る事ができる日本人青年建築家の話も、自分と同じだったからです。情報や考えが、立体的な映像でどの方向からでも頭の中で見ることができ、音声も聞こえてくるのです。
普通の人は、頭のなかで言葉で考えるのが当たり前なのに、平田さんの場合には、影像で見えてくるものを言葉に出してから考えるそうです。文章を書く時も、書きたい内容が一瞬で映像として出てきて、それをいろいろな角度から眺めて検討してから、手がその映像を映すように単語を並べて書いていくのだそうです。話しながらでも本を読みながらでも別な事を考えながらでも、それはできますが、主語がなかったり、文法がでたらめだったりするので論理的な文章にはならず、絵のような文章になってしまいます。
ジャック・ホーナ教授は視覚的イメージ化が強く、地形や骨の一部を見ると、頭の中に太古の情景がリアルにイメージできるようですが、平田さんにも、3次元のイメージ力どころか、「時空を超えた」4次元以上の感覚があり、字は読めないけれど、時を読んだり答えを読んだりすることができると言います。実際に、数学のテストでは、いつも答えが先に頭から出てきてしまい、式がまったく書けませんでした。
平田さんは、同時にいろんな事をやり、興味がどんどん移っていくタイプなので、失くし物がとても多く、1日の何時間か失くし物探しに時間をとられてしまいます。好奇心は抜群で、知識欲がものすごいので、とても多くの本を読んでいますが、脳みその引き出しがバラバラなので、詰めこんだ本の情報を整理して利用することができず、必要なときにグーグル検索して物語のように映像で情報を取り出すのだそうです。
このように平田さんの思考形式は、大抵の人が行っている言語的思考ではなく、頭に浮かぶ映像でものごとを考える視覚的思考なのです。それに加えて、人物や場所を考えているとその臭いまででてくるというイメージと嗅覚が一緒に働く「共感覚」という現象も持っています。1つの事を立体映像のように見て、1度に多くのプラス、マイナスについて多角的に見て考えるので、異なる物事の類似性や共通性がわかり、違うものごとの本質をパッと言い当てたりができます。なにかトラブルが起きた時に、その問題の見えるところからではなく、問題を裏返して解決するので周囲の人はなぜそう考えるのか、ついていけないことも起こります。
ADHD(注意欠陥多動性障害)脳なので、自分の好きな事しか頭に入らず、興味がないと集中力が続きません。また、ディスレクシア(読み書き障害)脳なので学校の勉強には集中できなかったけど、手作りケーキを地域のおばちゃんからもらったことがきっかけでケーキ作りの道が開け、ケーキを焼く事にはいつもウキウキ集中していました。ケーキを何千回と焼いているうちに体が覚えてきて、不器用やうっかりを体が覚えてカバーしてくれました。器用な人だったらすぐ出きてしまい飽きるか、ある程度までで止めてしまうところを、不器用だったからこそ極められたのかもしれません。
平田さんの脳は、ADHD脳やディスレクシア脳だけではなく、相手の気持ちが分からないPDD(自閉症)脳でもあったため、社会生活では痛い思いをたくさんしてきましたが、第六感や体性感覚を強化しながら人との関係を作ってきました。障害的に弱い、筆記・会話・極度の白昼夢・スケジュール管理・計算・社会常識・運動の調整の悪さ・記憶・外国語などに比べ、才能視覚思考・空間的能力・パターン(類似)認識・問題解決力・創造性などはかなり優れています。これは多くの歴史上の天才たちが、すぐれた才能を持つ一方で、障がいを疑わすような苦手さを持っていたのと似た現象です。
平田さんのように、ディスレクシア特性に加えて、ADHD特性やPDD特性、マインズ・アイや視覚的思考、さらに感覚過敏や超感覚などを併せ持っている生まれ持った特性を、ロナルド・デイビスさんの本(邦訳:ディスレクシアなんて怖くない)に出てくる言葉を借りて、私はスーパー・ディスレクシアと名づけました。ジャック・ホーナ教授や平田さんのようなユニークな特性を持つ人が、天才と言われた人たちや世の中で活躍している人たちや発達障がいと言われている人たちの中に少なからずいるのです。
困難があることは、特別な能力が開花できるチャンスでもあります。平田さんは今、発達障がいがある者の代表の一人として、「世の中にこんな人間もいるんだよ」と知ってほしいと思っています。変っている事は悪い事ばかりではなく、自分を知って自分なりの人生の工夫をして生きて欲しいと願っています。