NPO法人 楽しいモグラクラブ

「脳・心・身体・魂・家族」病

大人の精神科研修に移ったら統合失調症の患者をたくさん診ることになるだろうとは思っていましたが、閉鎖病棟の担当になったこともあり、急性期から慢性期、軽症から重症、単純から複雑まで、統合失調症や関連疾患の患者を予想以上に多く診ることになりました。

これまで私が診療してきた統合失調症の患者たちは、すでに診断と治療がなされていて外来で診れるほど軽症の人たちであり、入院管理や大量の投薬治療を必要とするほどの幻覚妄想、精神興奮などの陽性症状の強い状態を診ていなかったのです。

以前、杉山登志郎先生が自閉症を100人以上診たことのない医者とは自閉症について話さないといっていた言葉を思いだします。やはり、実際の診療経験が少ない場合、教科書に書かれた表面的な定義だけでは患者や家族の生活や体験、内面や苦悩などわかりようもありません。

健常者が日常では経験し得ない幻聴や妄想の世界に脅え興奮している患者と、それを恐る恐る見守り興奮状態に耐えている家族であれば、外来受診は時間の問題なのですが、問題なのは、精神症状が顕在化しない、華々しい陽性症状がない、異常体験だとの自覚がない初期の段階の人たちなのです。

そのためには、統合失調症を定義どうりにではなく、スペクトラムとして理解し、その病態や経過のバリエーション、他の精神疾患との関係などを熟知して、早期にその発症を見抜くことが大切になり、早期症状(発病)を早期に発見し、早期の対応をして発症を予防していくことの重要性が専門家の間で話題になっています。

発達障がいについて、14年の外来診療を通して私が理解してきたのは、純粋な自閉症や多動症や学習障害などはなく、運動障害や知的障害を含めても、ほとんどの子どもたちが、実はさまざまな発達障がい特性の混合状態であり、発達経過とともに表に見える状態像が変化していき、次第に診断しにくくなるということでした。

精神疾患は、統合失調症圏、気分障害圏、不安障害圏の3大領域を含め合計10の領域に分類されていますが、3大領域に限っていえば、ほとんどの精神疾患はその混合状態であり、これらの領域のいずれが前景にでてくるかで、診断が異なってくるにすぎないのではないか今の私には思えています。

うつ病は、ストレスという一因にのみによって発症するものではなく、脳内の神経伝達系や生体の内分泌系などの生物学的脆弱性である「内因」と、うつ病を引き起こし易い性格傾向や考え方の偏りである「心因」と、心身過労や心身疾患、ホルモンバランス、成長や老化過程などの「身体因」との3要素が相互に影響しあって発症にいたると考えられています。

依存症は、バイオ・サイコ・ソーシャル・スピリチュアル・ファミリー・ディジーズ、つまり、何かに依存してしまって「身体と心と社会性」を病んでいるだけではなく、自分を超えた存在に「つながること」「信じること」「ゆだねること」ができず、家族も疲れはて、患者と同じように身体と心と社会性を病んでいくのだと考えられています。

遺伝素因と環境要因と霊的縁因が混ざり合って、ひとりの人間の成長に影響を与えて続けていくことなども私は経験してきました。このように心の病気、精神の異常には、実にさまざまな原因が関係しており、結果として表面に症状として現われた氷山の一角の下にある「隠れた病」「見えない病」、すなわち、脳と心と身体と魂と家族をも視野に入れて診断・治療していかなければならないと今考えています。